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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)8357号 判決 1989年4月13日

原告

森川十三男

右訴訟代理人弁護士

西元信夫

被告

大日本エリオ株式会社

右代表者代表取締役

橋本義郎

右訴訟代理人弁護士

中筋一郎

益田哲生

荒尾幸三

為近百合俊

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和六二年四月二四日付けでなした譴責処分が無効であることを確認する。

2  被告は原告に対し、金五〇万円及びこれに対する昭和六二年九月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  被告は、自己又は第三者により、原告が勤務時間外に、大阪工場内において、ビラ配布、署名活動その他組合活動を行うことを妨害してはならない。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  第2項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  無効確認請求

(1) 原告は被告の従業員であるところ、被告は原告に対する昭和六二年四月二四日付け譴責処分(以下「本件処分」という)が有効であると主張している。

(2) 被告における給与規定は、従業員を八等級に格付けし、さらに昇給基準額については各等級ごとに五ランクに分類する方法をとっているが、本件処分が有効であるとすれば、原告は右格付け・分類において不利益を被る。

2  損害賠償請求

(1) 被告の本件処分は原告の労働基準法改悪反対請願の署名活動を理由になされたものであるところ、右署名活動は、後記組合の分会長として、その上部団体である総評大阪地方評議会の指令に基づき組合活動の一環として、労働基準法改正案が現状の長時間労働を固定化するばかりか逆に時間延長につながりかねない危険性を含んでいる等到底認め難いとしてなされたものであるから、労働者の労働条件や経済生活に密接に関連する政治活動であり、また、会社の許可がなかったとしても何ら服務規律の問題は生じない被告の指揮命令権から完全に離脱した休憩時間中においてなされたものであるから、労働組合の正当な組合活動に該当することが明らかである。

(2) したがって、右署名活動を理由になされた被告の本件処分は不当労働行為として無効であり、被告は故意または過失により、原告に対し、無効な懲戒処分をなすことをもって原告の組合活動をする権利を侵害し、精神的苦痛を与えたというべきである。

(3) そして、右精神的苦痛を金銭に換算すれば金五〇万円を下らない。

3  妨害予防請求

(1) 原告は総評全国一般大阪地連大阪一般労組大日本エリオ分会(以下「分会」という)の分会長であるとともに唯一の分会員であり、分会員拡大のため勤務時間外に大阪工場内外でビラ配布、署名活動その他組合活動を予定しているが、以下の経緯によれば、被告は今も原告を嫌悪しているため就業規則を盾に原告の組合活動の妨害をしてくることが明らかである。

(2) 原告ら被告の従業員約六〇名は同四二年五月大阪一般労働組合メタル分会を結成したが、被告がこれを快しとせず正当理由なく団交を拒否したり分会の組織破壊を図ったため同四四年一月には分会員は一五名に激減したのみならず、同年四月には被告主導のもとに係長、主任及び班長を中心に約二〇名でメタルプリント労働組合(以下「第二組合」という)が結成された。

(3) その後も賃上げにおける不当に低位な考課査定、一時金の不支給、分会員に対する個別の脱退工作等被告の分会に対する組織破壊が続いたため、同四七年には分会員は原告ら三名になった。さらに被告の分会員に対する脱退工作は続き同五三年には分会員は原告一人という状況になったが、原告に対する賃金、昇格差別は現在でも継続している。

(4) 被告は原告の活動を封じ込めようと、違法・無効な本件処分をなしたほか、原告が第二組合の役員選挙に関する批判ビラを配布したことを捉えて、原告に対し譴責処分にする旨脅しをかけてくる状況である。なお、被告は原告が行った本件労基法改悪反対請願署名用紙(数名の署名がある)を取り上げて原告に返還せず、仮処分の審尋期日に訴訟代理人を通じて漸くこれを返還した。

4  よって原告は被告に対して、本件処分が無効であることの確認、不法行為に基づく損害賠償として金五〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六二年九月一〇日から支払済みまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払い、並びに自己又は第三者により原告が勤務時間外に大阪工場内において、ビラ配布、署名活動その他組合活動を行うことを妨害してはならないことを命ずる裁判を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(1)の事実、及び(2)の事実のうち、被告の給与規定が従業員を八等級に格付けしていること、及び昇給基準額が各等級ごとに五ランクに分類する方法をとっていることは認め、その余は否認する。

2(1)  同2の(1)の事実のうち、本件処分が原告の署名活動を理由になされたものであること、及び右署名活動が休憩時間中に休憩室においてなされたものであることは認め、原告の右署名活動が、組合の分会長としてその上部団体である総評大阪地方評議会の指令に基づいてなされたことは不知であり、その余は否認する。

休憩時間は労働者の自由利用に供されるものであるが、会社の施設内においては、その施設管理権の合理的な行使として是認される範囲内の制約を免れず、また他の労働者の休憩時間の自由利用を妨げる行為はなしえないと解すべきである。

(2)  同2の(2)及び(3)は争う。

3(1)  同3の(1)の事実のうち、原告が分会長であるとともに唯一の分会員であることは認め、原告が分会員拡大のため勤務時間外に大阪工場内外でビラ配布、署名活動その他組合活動を予定していることは不知であり、その余は否認する。

(2)  同3の(2)の事実のうち、原告ら被告の従業員が昭和四二年五月分会を結成したこと、及び同四四年四月第二組合が結成されたことは認め、その余は否認する。

(3)  同3の(3)の事実のうち、同五三年には分会員が原告一人になったことは認め、その余は否認する。

(4)  同3の(4)の事実のうち、被告が本件処分をなしたこと、及び被告が原告に本件労基法改悪反対請願署名用紙(数名の署名がある)を、仮処分の審尋期日に訴訟代理人を通じてこれを返還したことは認め、その余は否認する。

三  抗弁(請求原因1に対して)

1  被告は同六二年四月二四日、以下の経緯により、原告に対する本件処分を行なった。

2  原告は同月一五日休憩時間中である午後〇時三〇分ころ被告工場B棟の和室休憩室において、休憩中の従業員らに対し、その趣旨を説明したうえで衆参両院議長に対する「労働基準法の全面改悪に反対し最低基準の大幅引上げを求める請願書」と題する請願書への署名を求め、従業員三名に署名させた。原告の右署名活動は純然たる組合活動ではなく、休憩時間中になされたとしても被告の施設内で行われたのであり、単なる文書の配布等とは異なり高度に政治的な内容の文書につき他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げる態様、内容の行為であり、実際右署名者の中には同僚、年長者ないしは先輩からの依頼なので仕方なく、或いは署名の趣旨を確かめず応じた者もあった。

3  被告は原告に対し本件処分前に反省を求めたが、原告には反省の態度がみられなかった。

4  被告の就業規則(別紙)では、会社施設を利用し、または構内で行う政治的活動は禁止され(就業規則第五条9号)、会社での集会、口演、文書配布は許可にかからしめている(同第一〇条)ほか、譴責処分事由(同八一条)を定めている。本件署名活動は右「政治的活動」に当たり、また右「許可を要する行為」に含まれるというべきである。したがって、原告の行為は同第五条及び一〇条に違反し同第八一条4号に該当する。

四  抗弁に対する認否及び原告の反論

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、原告が同六二年四月一五日休憩時間中である午後〇時三〇分ころ被告工場B棟の和室休憩室において、休憩中の従業員らに対し、その趣旨を説明したうえで衆参両院議長に対する「労働基準法の全面改悪に反対し最低基準の大幅引上げを求める請願書」と題する請願書への署名を求め、従業員三名に署名させたことは認め、その余は否認する。

3  同3の事実は否認する。

4  同4の事実のうち、被告の就業規則では、会社での集会、口演、文書配布を会社の許可にかからしめている(同第一〇条)ほか、譴責処分事由(同八一条)を定めていることは認め、同規則において、会社施設を利用して、または構内で政治的活動を行うことが禁止されていることは否認し、その余は争う。

原告に配布された就業規則には政治的活動を禁止した規定は存在しないのであるが、仮に同規則において政治的活動禁止規定が定められているとしても、右規定は憲法二一条及び一九条で保障されている重要な市民的権利である政治的活動を企業内において一般的に禁止するものであり、その合理的根拠はないから、公の秩序(民法九〇条)に違反して無効である。

五  再抗弁

1  特段の事情

就業規則第五条9号(政治的活動禁止規定)が有効であるとしても、これによって禁止される政治的活動の範囲は、現実的かつ具体的に職場規律が乱され、企業活動に支障をきたす場合に限定されると解すべきである。しかるに原告は、休憩時間中に平和的説得の方法で署名活動を行ったにすぎないから、これにより現実的かつ具体的に職場規律が乱され、企業活動に支障をきたしたとはいえないのであり、したがって、右署名活動は右規定により禁止された政治的活動に該当しない。

2  不当労働行為

被告の本件処分は、請求原因2の(1)記載のとおり正当な組合活動を行ったことに対してなされた不利益な取扱であり、不当労働行為に当たる。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1は争う。

2  同2の事実は争う。

第三証拠(略)

理由

一  無効確認請求について

1  請求原因1の(1)の事実は当事者間に争いがない。同(2)の事実のうち、被告の給与規定が従業員を八等級に格付けしていること及び昇給基準額が各等級ごとに五ランクに分類する方法をとっていることは、当事者間に争いがなく、その余の事実は原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨から認められる。

2  抗弁1の事実(被告が本件処分をしたこと)は当事者間に争いがない。そこで、本件処分の効力について検討する。

(1)  同2の事実のうち、原告が同六二年四月一五日休憩時間中である午後〇時三〇分ころ被告工場B棟の和室休憩室において、休憩中の従業員らに対し、その趣旨を説明したうえで衆参両院議長に対する「労働基準法の全面改悪に反対し最低基準の大幅引上げを求める請願書」と題する請願書への署名を求め、従業員三名に署名させたこと、並びに同4の事実のうち、被告の就業規則では、会社での集会、口演、文書配布を会社の許可にかからしめている(同第一〇条)こと、及び譴責処分事由(同八一条)を定めていることは、当事者間に争いがない。

(2)  右事実に、(証拠略)並びに弁論の全趣旨を総合すれば以下の事実が認められる。

ア 原告は総評全国一般大阪地連大阪一般労働組合大日本エリオ分会の分会長であり唯一の分会員であるが、総評大阪地評の統一指令に基づき、昭和六二年四月一五日の休憩時間中である午後〇時三〇分ころ被告工場B棟二階の和室休憩室において、休憩中の従業員らに対し、労働基準法の改正に反対するという趣旨を説明したうえ「絶対に迷惑をかけないから」等と説得し、衆参両院議長に対する「労働基準法の全面改悪に反対し最低基準の大幅引き上げを求める請願書」と題する用紙(<証拠略>)に署名を求めた。当時同室では渡辺信人、岩村秀明ら被告の従業員らが将棋をしたり、新聞を読んだりして休憩をとっていたが、当時将棋をしていた右渡辺及び岩村がこれに応じ、右用紙に署名をした。なお、右用紙には被告従業員中祖久徳の署名がすでになされており、原告は同日までに別の用紙二枚に約二〇名の署名を集めていた。

右渡辺が署名をしていた時同室に来た総務係長平尾孟は原告に対し「何の署名か、君の関係したものか」と尋ねたところ、原告は「そうだ」と答えたので、さらに同係長は「文書の配布とか署名をする場合は会社の構内である限り会社の許可が必要である。就業規則をみたことがないのか、その署名したものをちょっと預かる」等と申し向けたところ、原告は「昼休みだから何も迷惑を掛けない。よその会社でもやっている。就業規則のことは知らない」等といっていたが、右署名用紙を同係長に渡した。このようなやりとりの間に右岩村が署名をすませ、同係長は右用紙を持って退室した。

イ そして原告は、同月一七日午前一〇時三〇分ころ被告の応接室において、堤技術部長、三村総務副部長、下川副課長から右署名活動に関する事情聴取を受けたが、全く反省の意思はなかった。ここにおいて三村副部長は、原告に今回の行為が就業規則第五条9号及び第八二条2号、13号に違反する旨該当条項を読み上げて説明し、「今後は止めるように」と注意したが、原告は「今後もやります」と答え、同副部長が二度に渡って「厳正な措置をとらざるを得ないが、今後違反行為をしないと誓えないか」と尋ねたところ、原告は「誓えない」と答えた。さらに同副部長は「衆参両院議長宛の請願書に署名を求める行為は就業規則で禁止されている会社施設内の政治的活動であり、たとえ組合活動であっても会社の許可なくしてはできないはずである。昼休みだからといって自由にできるというのは君の勝手な主観によるものだ。他の従業員の邪魔になり迷惑である」等と述べたのに対し、原告は「今回の行為は組合を通じての組合活動であり政治的活動ではない。昼休みの時間なので会社に届けを出す必要はない」等と述べた。

ウ 同副部長らは右事情聴取の結果をふまえ、さらに右署名活動の内容、従業員に与えた効果、原告の処分歴等を検討して、譴責処分が相当であると判断したため、同六二年四月二四日午前一一時ころ、同副部長のほか横田大阪工場長、堤技術部長、下川副課長の立ち合いのもとで原告に口頭で本件処分を発令した。被告においては、懲戒処分通知と題する書面を対象者に交付し、さらに懲戒処分発令簿に同人が捺印するという手続きで懲戒処分を発令する慣行になっているため、同副部長は原告に本件懲戒処分通知書(証拠略)を原告に示し、本件懲戒処分発令簿(証拠略)に捺印を求めたところ、原告は右通知書の受領及び右発令簿への捺印を拒否した。なお、原告は第二組合を誹謗・中傷し会社の秩序を乱したことを理由に同六一年一〇月三日付けで譴責処分を受けている。

エ ところで被告の就業規則(別紙)では、会社施設を利用し、または構内で行う政治的活動は禁止され(同規則第五条9号)、会社での集会、口演、文書配布は許可にかからしめている(同第一〇条)ほか、譴責処分事由(同八一条)を定めている。もっとも、被告の就業規則は、従来政治的活動を禁止する規定を置いてなかったが、被告は、同五九年八月一日同規則第五条に9号を追加するという形で政治的活動を禁止する旨規定して同規則を改定し、同年九月に所轄の労働基準監督署にその旨届けた。そして被告は、原告を含む従業員全員に対して同日付けで制定された退職年金規定(証拠略)と共に右同規則の改定内容が記載された就業規則他改定表(証拠略)を配布した。

以上の事実が認定され、これに反する原告本人の供述部分は信用することができず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

(3)  右認定事実によれば、被告の原告に対する本件処分は、原告が休憩時間中に会社施設内で労働基準法改正に反対するための衆参両院議長に対する請願書の趣旨説明を含めて、これに対して署名活動をなしたことを理由にしているところ、原告の右行為はその性質上、就業規則第五条9号で禁止された「政治的活動」に該当し、原告は三村副部長から就業規則違反であるとの指摘を受けても反省の意思がなかったことを併せ考慮すれば、原告の右行為は同規則第八二条との対比から少なくとも同規則第八一条4号に該当するものと認められる。しかも被告は、慣行に従い原告に対し告知聴問の機会を与える等慎重な手続きによって、同規則が規定している懲戒処分としては最も軽い譴責処分をなしたことが認められ、そうすると、被告の抗弁は理由がある。

ところで原告は、会社施設を利用して、或いは構内での政治的活動を禁止している就業規則第五条9号は憲法一九条、二一条及び民法九〇条に違反し無効である旨主張している。なるほど憲法一九条、二一条で保障されている政治活動の自由は重要な市民的権利として私人間における公序を形成していることはいうまでもないが、他方、私人間においては私的自治の原則が支配し、会社の就業規則において合理的理由のもとに従業員の政治活動の自由を制約することは許容されるものと解される。そして、ここで禁止された政治的活動は不特定多数の従業員を対象にした署名運動等が予定されていると考えられるところ、これらの行為が会社施設を利用して或いは会社構内で行われたならば、労働者の労働義務の履行を妨げ、従業員間に不必要な緊張や反目を生じさせ、ときには従業員間の融和の崩壊や勤労意欲の減退を招き、ひいては会社の秩序維持や生産性の向上にまで支障をきたすおそれがあることに鑑みれば、会社が自己の有する施設管理権及び秩序維持権に基づきこれらの行為を禁止することは合理的理由による制約と解することができる。したがって、政治的活動を禁止している被告の就業規則第五条9号は有効であると解され、原告の右主張は採用できない。

(4)  もっとも、従業員の政治活動の自由が重要な市民的権利として尊重されるべきことに鑑みれば、形式的に同号に該当する政治的行為であっても実質的に会社内の秩序を乱すおそれのない特段の事情が認められるときには、右規定に違反するものではないと解するを相当とする。そこで再抗弁1を検討するに、(2)で認定した事実によれば、原告の本件署名活動は会社施設内において労働基準法改正に反対するための衆参両院議長に対する請願書の趣旨説明を含むという濃厚な政治活動であったうえ、単に従業員に署名を求めることを越えて「絶対に迷惑をかけない」等と説得に及んだものであり、さらに被告が預かった署名用紙には三名の署名がなされていたにすぎないが、他の用紙には約二〇名の署名がなされており、本件署名活動はその一環であったことが認められ、右事実を総合すれば、本件処分の対象になった原告の行為により相当程度会社内の秩序が乱されたものと推認され、実質的に会社内の秩序を乱すおそれのない右特段の事情があったとは到底いえない。したがって、再抗弁1は理由がない。

(5)  さらに再抗弁2について検討する。なるほど(2)で認定した事実によれば、原告の本件署名活動は、その上部団体の指令に基づきなされたものであり、労働者の労働条件や経済生活に密接に関連する政治活動の性質を有し、しかも会社の施設内においてなされたとはいえ休憩時間中であったことが認められる。しかしながら、前記のとおり会社の施設内においては会社の施設管理権、秩序維持権に服することが是認されねばならず、さらに右認定事実によれば、本件署名活動はその趣旨説明、説得を伴っていたことが認められる。そして、休憩時間中においては他の労働者が休憩時間を自由に利用する権利を有していることが尊重されなければならないから、これを妨げる行為を当然にはなしえないと解すべきである。そうすると、本件署名活動が上部団体の指令に基づきなされた組合活動であったとしても、右署名活動は、被告の施設内において、しかもその趣旨説明、説得を伴っていたことから、被告の施設管理権、秩序維持権を侵害したうえ、休憩中の他の従業員の自由に休憩する権利をも相当程度妨げたと推認され、これをもって正当な組合活動であったということは到底できない。したがって、被告の本件処分は、原告が秩序を乱した等の行為に及んだことに対してなされたものであり、原告が正当な組合活動をしたことを理由になされたものではないと認められるから、これをもって不当労働行為ということはできず、再抗弁2は理由がない。

3  よって、被告の本件処分は有効・適法であると認められ、原告の本件請求は失当である。

二  損害賠償請求について

原告の本件請求は、本件処分が無効であることを理由になされているところ、前記のとおり、右処分は有効・適法であると認められるから、その余の点について判断するまでもなく失当である。

三  妨害予防請求について

1  請求原因3の(1)の事実のうち、原告が分会の分会長であるとともに唯一の分会員であることは当事者間に争いがなく、原告が分会員拡大のため勤務時間外に大阪工場内外でビラ配布、署名活動その他組合活動を予定していることは原告本人尋問の結果から認められる。

さらに本件処分が労基法改正についての署名活動を理由にしてなされたものであることは当事者間に争いがなく、また原告が第二組合を誹謗・中傷し会社の秩序を乱したことを理由に同六一年一〇月三日付けで譴責処分を受けていることは一の2の(2)で認定したとおりである。

2  ところで原告の被告に対する本件請求が是認されるためには、例えば被告がこれまでにも一度ならず原告に対し、正当な組合活動をしたことを理由に、違法・無効な懲戒処分に付したことがある等、被告の将来における行為による違法な原告に対する権利侵害の高度の蓋然性が存在することが必要と解される。これを本件についてみるに、1で認定した事実によれば、原告は今後署名活動等の組合活動を予定していること、及び被告は原告に対しこれまで本件処分を含め二度の譴責処分に付していることが認められるが、前記のとおり、本件処分は原告が会社の秩序を乱したことを理由になされた有効・適法なものと認められ、同六一年一〇月三日付けのものも無効・違法なものであると認めるに足りる証拠はない。そして、本件全記録を精査しても被告の行為による右高度の蓋然性が存在することを認めるに足りる事実及び証拠は見当たらない。

3  よって、原告の本件請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 北澤章功 裁判官 鹿島久義)

(別紙) 就業規則(抄)

第二章 勤務

第一節 服務規律

第五条(一般遵守事項)

1ないし8(省略)

9 会社の所有または管理する土地建物その他の施設を利用し、または構内で政治的活動および宗教的活動を行なわないこと。

第一〇条(集会、文書の掲示、配布、口演の禁止)

従業員は許可なく会社内(寮を含む)で集会、口演、および文書その他の掲示配布等をしてはならない。

第八章 表彰および懲戒

第二節 懲戒

第八〇条(懲戒の種類)

懲戒処分は以下に掲げる譴責、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇の五種類とする。(以下省略)

第八一条(譴責)

従業員が次の各号の一に該当するときは譴責に処する。

1 無断欠勤その他勤務に関する所定の手続、もしくは届出を怠り、または詐ったとき

2 しばしば遅刻・早退・欠勤したとき

3 就業時間中みだりに自己の職場を離れ、またはその他勤務怠慢で業務に対する熱意を欠くと認められるとき

4 その他前各号に準ずる程度の事由があるとき

第八二条(減給、出勤停止)

従業員が次の各号の一に該当するときは減給、または出勤停止に処する。但し、情状により譴責に止めることがある。

1 (省略)

2 許可なく会社内(寮を含む)で集会もしくは口演し、または文書その他を掲示もしくは配布したとき

3ないし12 (省略)

13 その他前各号に準ずる程度の行為があったとき

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